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故郷(オリジナル作品)

ひととき

ソワソワした私の様子を察したのか、由紀子さんが呟いた。


「食事だけで帰るの?」やっぱり女性の方がしたたかなのかもしれない。


俺は頭に血が上るくらい血液が早く流れた。


「いや、あの〜」一瞬戸惑った私だが、もう勇気を出すしかない!


「由紀子さん、帰したくない! あなたが欲しい! やっぱり好きなんです!」

……

大学にから故郷を離れていた私。

そのまま都会で就職し、もう30年が過ぎた。

結婚し、家族もあったが数年前に上手くいかず離婚し、今は一人で暮らしている。

世の中厳しいもので、早期退職を迫られた。

どちらかと言えば、うだつの上がらない世の中に流されるタイプだった私です。

辞めざるを得なくなったが、次の働き口がない・・。

しばしば連絡をとっていた故郷の友人に何度か相談していたところ

給料は安いが、働ける場所が何とか見つかり故郷へ帰ることになった。

実家はもう無くなっており、アパートでの新生活である。

約30年ぶりの故郷は、懐かしくも新鮮でもあった。

就職祝いという名の「昔の仲間の飲み会」をしてもらった。

一人で数年寂しい生活をしていた私には、懐かしく嬉しい時間だった。

友人に誘われ、2次会でスナックへ行った。

ママが私たちの相手をしてくれたのだが

他のお客さんと話している女性に目が止まった。

「あれ?彼女どこかで見たような・・ひょっとして・・」そう思っていると

「気づいた?彼女、高校の時お前が憧れていた由紀子さんだよ」と友人がニヤリと笑って言った。

さすがに年齢は重ねていたが、スレンダーでメリハリのある美形な顔立ちはそのまま由紀子さんだった。

もう何年も揺れる事がなかった心の奥で高まる感情を覚えた。

しかし友人の前で恥ずかしさもあり

「そういう時もあったよな~」なんて適当にごまかした。

その夜、由紀子さんと会話はなく、何度か目が合い会釈をした程度でお開きとなった。

その日から、何度も由紀子さんが頭に浮かんでくる。

あまり自覚はなかったが彼女のことが気になっていたようだ。

数日後、一人で由紀子さんがいるスナックに行った。

やっぱり気が早っていたのか、早い時間帯だったので他に客はおらずママだけだった。

由紀子さんのことをママに聞くのも恥ずかしいので

素知らぬ顔でママに故郷へ帰ってきたことなどを話し、ボトルキープをした。

何度も来たいと思っていた訳ではなかったが、気持ちは高まっていたのかもしれない。

1時間ほどして由紀子さんがやってきた。

急に鼓動が高まった。

「あら、この間の・・」由紀子さんが先日のことを覚えてくれていた。

それだけで嬉しくなった。

すかさずママが由紀子さんに

「この方昔ここに住んでいて、最近帰って来られたんですって」と

先ほどママに話した経過を由紀子さんに伝えてくれた。

「そうなんですか、私も同じなんですよ」という由紀子さん。

話を聞くと、由紀子さんは結婚を機に田舎を離れた。

子どもはできずご主人からDVを受けるようになって数年前に離婚し戻ってきたとのこと。

由紀子さんと話せて嬉しい気持ちが湧いたが、やっぱりドキドキする。

何だか高校時代に由紀子さんに憧れて抱いていた気持ちがよみがえってきた。

さりげなく振舞ったが、憧れの人を目の前にして緊張していたようで、飲んでも酔いがまわってこなかった。

その後何度かスナックに足を運んだ。

徐々にリラックスして過ごすことができるようになっていた。

そんな折、由紀子さんが

「あなた、高校の時の〇〇君でしょ?」とにっこり笑って言ってきた。

「ええっ?!そうですけど覚えているんですか?」

私はやや驚いて答えた。

それもそのはずで、由紀子さんは私の1つ年上のマドンナ的存在で

私はひそかに憧れて眺めていただけであった。

なので彼女が知っているなんてことは思いもよらなかったのである。

「高校の時、友だちがね『あの子由紀子にぞっこんらしいわヨ』って教えてくれたの」

「その時、『あら、かわいくってイイ感じな子』って思ったのを覚えているわ」

まさか私のことを知っていて、覚えてくれているとは・・・

それに「かわいくってイイ感じ」って覚えている・・・

ということは脈ありなのか?

男はいつも自分の都合の良い方に飛躍するものである。

そう思った瞬間、胸がときめいた!

高校時代よりもさらに・・・

あの時は純粋に憧れて好きな気持ちだった。

でも歳を重ねた今は少し違って「欲望」が顔を覗かせていた。

ドキドキした気持ちは変わりはなかった。

「今の私はどうですか?」と聞いてみた。

「歳を重ねて、少し憂いを感じられて昔よりステキですよ」と言ってくれた。

社交辞令だったかもしれないが、私の気持ちは一気に由紀子さんに傾いた!

「ひょっとしたらまんざらでもないかも?!」

男はいつも単純である。

その日を境に、憧れの人に会った緊張感から

「この人ともっと近づきたい」という恋?みたいな気持ちへと変わった。

と同時に彼女への妄想が頭をよぎるようになった。

スレンダーな肢体を抱きしめる感覚、メリハリのある美形な顔が感じる表情を思い浮かべ

何度も妄想にかられた。

その日から私は彼女をお店以外でどうしたら会えるか?夢中になって考えた。

時々「50歳になろうとする男がすることか?」と自問自答することもあったが

いくつになっても人を好きになってしまうのは仕方がないことのようだ。

スナックで「一度食事に行きませんか?」と言ったところで

「お酒の席の話」で終わってしまいそうである。

かと言って他にきっかけを作れる場所なんて見つからない・・・

中々妙案が浮かばないまま、悶々とした時間が過ぎた。

その間も由紀子さんに会いたくてスナックに通った。

彼女の顔を見て話せて嬉しい反面、内心切なさが募る日々が過ぎていった。

家に帰ると彼女のことを思い浮かべながら妄想にふける夜が続いた。

私の高まった気持ちは収まることはなかった。

ある日、天が味方をしてくれた!

町のスーパーで買い物をしている時に

偶然、由紀子さんと出会った。

一瞬驚いたが「こんなチャンスはもうない!」

勇気を出して

「由紀子さん、お店以外で一度食事に行きませんか?」と誘った。

「あ、ええ・・・」彼女は少し戸惑った様子を見せ、その場は終わった。

「そりゃそうだよな、昔のことを覚えているというだけでただの客だもんな」

私は自分に言い聞かせた。

諦めの気持ちとやっぱり会いたい気持ちが交錯したが

最後はやっぱり会いたくてスナックに足を向けてしまっていた。

いつものように過ぎていく時間の中で・・

ポッカリとスペースが開いたように

ふいに私と由紀子さんの二人だけの時間が訪れた。

その時彼女が「いいわよ、今度行きましょ!」「ここに連絡くれる?」と言い

連絡先を書いた紙を渡してくれた。

帰宅してすぐに彼女に連絡をし、都合の良い日を合わせて食事に誘った。

心で「やった~~~!!」と叫びながら、妄想へと落ちていった。

トキメク気持ちは学生時代と同様な「少し甘酸っぱい胸が締め付けられるような」感じではあるのだが

歳を重ねた今は「抱きたい」のが本音かもしれないと思った。

そして由紀子さんと食事、静かな創作料理のお店へ。

やってきた由紀子さんに「ドキッ」っとした。

スナックで見た時とは、また違った上品な雰囲気の色気を醸し出していた。

「由紀子さん、キレイだ!」思わず言ってしまった。

「もう、恥ずかしいじゃない」と照れ笑いをする彼女がさらにソソる。

下心が出たり引いたりしたが、純粋に好意を抱いているのである。

お互いにやや緊張気味のスタートになったが

食事をし、お酒も入ってリラックスしてきて

地元の話題、高校時代の話、お互いの結婚生活や別れた時の話などたくさん喋った。

活動的で明るい彼女だが、時折見せる寂しそうな表情が刺さる。

結婚後、子どもができないのを訳もなく義理の親から責められたこと

仕事に行き詰ったストレスを暴力で発散させる元夫のこと

逃げるように田舎に戻って来たこと。

夜はスナックに出ているが、昼間は工場でパートをしているとのこと。

表面上は愛想よく振舞っているが家へ帰ると寂しくてツラい。

夜は特に寂しくなるからスナックに出て紛らしているのかな?と呟く彼女。

でも男性を信用できず怖い、など心中を打ち明けてくれた。

「守ってあげたい」

「寂しさを忘れるくらい抱きしめたい」など

由紀子さんのことを詳しく知るたびにさらに惹かれていくのを感じた。

楽しく嬉しい時間が流れる中、一方頭の中ではその後のことをひたすら考えていた。

「また次の約束をしようか」

「いや、何度もチャンスは来ないかもしれないぞ」

「その先を誘って嫌われたらおしまいだぞ」

「失敗したらもう顔も見れなくなるぞ」

「寂しさを見せてきた今ならイケる!」

迷っている気持ちが行動に出ていたのか

ソワソワした私の様子を察したのか、由紀子さんが呟いた。

「食事だけで帰るの?」

やっぱり最後は女性の方がしたたかなのかもしれない。

頭に血が上るのが分かったくらいドキドキした。

「いや、あの〜」一瞬戸惑った私だが、もう勇気を出すしかない!

「由紀子さん、帰したくない! あなたが欲しい! やっぱり好きなんです!」

言ってしまった・・。

「私も好きよ。そのつもりで今夜は来たのよ」

「勇気を出してOKしたんだから」と微笑んで言ってくれた。

「思いきって言って良かった」

安心したと同時に興奮する気持ちが身体中を駆け巡った。

お店を出る時には二人してすっかり「その気」になって、腕を組んでホテルに向かった。

甘えてくる彼女に脳汁が溢れそうな私だった。

部屋に入ってすぐに抱きしめ合い何度も深くキスを重ねた。

服を脱がせた彼女の下着は鮮やかで色っぽかった。

「普段はこんなの付けないのよ」恥ずかしそうに彼女が言った。

「その気」だったんだと思うとさらに熱くなったのを覚えている。

お互いに寂しさや切なさを感じてきた者同士・・

そのツラかった想いを爆発させるかのように激しく抱き合った。

憧れていたスレンダーな肢体を何度も感じながら抱き、うつろに感じた彼女の表情を見続けながら愛し合った。

夜は更けていった。

しかし人生いろいろあって、寂しさを抱えてきた二人の燃え上がった思いは収まることがない。

何度も相手の温もりを感じながら愛し続けたのでした。

その後、お互いに表向きの日常生活を邪魔しないように、食事をしたり、時には旅行に行き、愛し合う日々が続いています。

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