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最後の恋

純愛

元ネタはこちら→https://huroku-ch.com/518

30年前の恋人との再会。それは60代になった女にとって不相応かもしれないけれど、私にとって胸高鳴るものでした。その日私は、待ち合わせ時間よりも早くカフェに到着しました。

カフェの中を見回したけれど、彼はまだ来ていないようだったので、彼が私を見つけやすいようにと窓際のテーブルにむかいました。夫が亡くなってからも、ふしだらな体型にはなるまいと努力してきたおかげで、私が横切るたび、店内にいた男性がその線に沿って目を滑らせています。ああ、まだ女として見てもらえている。そう思うと少しの自信と優越感を感じました。窓際の席に座り、外を行き交う人々をぼんやりと眺めていました。心の中は、少しの不安と期待が入り混じっていました。

30年前の恋人、智一との再会。子供が自立した時もさみしかったが、夫と死別しとうとう一人ぼっちになってしまいました。さみしさを埋めようとFacebookに登録したのがきっかけでした。

さみしさと勢いで会う約束をしてしまったけれど、彼にも家庭があるはず。彼にそんな気はないのかも。そんな期待して恥ずかしい。古い友達と会うだけよ。そう言い聞かせながら私は彼との過ぎ去った日々を思い返していました。

初めての恋、初めてのキス、初めての快楽、そして別れ。私たちの関係は、若さゆえの情熱と不器用さがつまった甘酸っぱいものでした。

カフェの扉が開く音に、私ははっとしました。入ってきたのは智一でした。彼もまた、歳を重ねていましたが、その目は変わらず深い優しさを宿していました。彼は私を見つけると、一瞬のためらいを見せた後、笑顔を浮かべながら私のテーブルへと歩み寄りました。

「恵子、久しぶりだね。」

智一の声には、昔と変わらない温かみがありました。私は、戸惑いながらも微笑み返しました。

「智一、本当に久しぶりね。」

私たち二人の会話は、最初こそたどたどしかったのですが、徐々に昔のような自然さを取り戻していきました。私たちは、過去の思い出話から始め、やがてそれぞれの人生の話へと移っていき、子供の成長、そして愛する人との別れ。人生の喜びと悲しみを、互いに分かちあいました。

誰かと話すのも、久しぶりで、感じていた孤独が徐々に癒されていくのを感じました。

けれどこの時間も長くは続きませんでした。時計の音がするたび、もう進まないでと心の中で祈っていました。そんな時、この気持ちを知ってか知らずか、智一は私を見つめて静かに言いました。

「恵子、またもう一度、会えないかな?」

智一の真剣なまなざしに私の心は高鳴りました。その目は確かに私を一人の女性として映していました。

「ええ、もちろんよ。」

私の返事に、智一の顔が明るくなりました。ああ、変わらない。智一の素直なこの表情が好きだったのだと思い出しました。

私たちには、かつてのような若さはないけれど、再びあの甘酸っぱい情熱を感じました。

カフェを出た後も、私たちはしばらく街を歩き、昔を懐かしむように話を続けました。私たちの会話は、これまでの人生を振り返るものから、これからを見据える話へと変わっていきました。

春の終わりを告げるような心地よい風が吹き渡る中、私と智一はかつて二人が時間を忘れて過ごしたあの海岸へと車を走らせました。

窓から入ってくる潮の香りが、遠い記憶を呼び覚まします。私は窓の外を眺めながら、あの日のことを思い出していました。

「ねえ、智一。覚えてる?あの夏、あなたが海で拾った貝殻をまだ持っているのよ」

と私が話し始めると、智一も微笑みを浮かべながら応じました。

「ああ、あの時は若かったな。そんなものしかプレゼントできなかった」

「若かったから。何をしても楽しかったわ。あの貝殻も、宝石のように価値があったわ。」

懐かしさと、さみしさを含んだ智一の横顔を見つめながら、ただただ今がずっと続けばいいのにと思いました。

目的地について、車を降り砂浜に足を踏み入れました。たどたどしく智一が伸ばした手を、私は微笑みながら握り返しました。

「若いころと変わらないのね」

海岸には他に人はおらず、夕日が水平線にゆっくりと沈む様子を二人だけで見守る静かな時間が流れました。波の音が静かに耳に心地よく響き、二人の歩く足元には砂が優しく応えました。

「恵子、こうしてまた一緒にここに来られるなんて、本当に夢のようだ」

と智一が言うと、私は彼の目をじっと見つめ返しました。

「智一、私も同じ気持ちよ。ここは私たちにとって、とても大切な場所だから。」

思い出の共有 海風がそよぐ中、私と彼は潮騒を背景に、かつての思い出を静かに語り合いました。彼はふと思い出したかのように私に話し始めました。

「恵子、ここが初めて君に告白した場所だよね。あの時の僕は、勇気を振り絞って、君にすべてを打ち明けたんだ。」

智一の声には遠い日の情熱がこもっていました。彼は私の反応を伺いながら、懐かしむように話を続けました。私はその言葉に微笑みを浮かべながら答えました。

「ええ、覚えてるわ。顔を真っ赤にしていたわね。」

夕陽が私たちの顔を柔らかく照らし出し、二人の影が一つに溶け合うように長く海辺に伸びていきました。智一が私の手を強く握ると、そこから伝わった熱が私の鼓動をより高鳴らせました。

私は智一の手をしっかりと握り返しました。私も、そして彼も互いを想いあっているという確信がありました。

「智一、あの頃の私たちは、未来がどうなるかなんて分からなかった。でもね、今はあなたがそばにいてくれたから、どんな困難も乗り越えられた気がするわ。」

智一は私の方を向き、真剣な眼差しで語りかけました。

「恵子、君と再びこうして時間を共有できることが、どれほど幸せか。君のことを思い出すたび、僕の心はいつも温かくなるんだ。」

夕日が完全に水平線に沈みかけると、その光は海面に金色の道を作り出し、私たちはその美しさに見とれながら、互いの存在の大切さを感じていました。智一は私の頬に手を伸ばし、そっと触れると私の目をじっと見つめました。

夕日は完全に地平線に沈み、周囲はやわらかい薄暮に包まれました。私たちは互いの近くにいることの温もりを感じながら、ゆっくりと顔を近づけ、見つめ合いました。

「恵子、今、こうして君と同じ景色を見られることが、どれほどかけがえのないことか。」

私は彼の目を見つめ返しながら、静かに頷きました。私たちの距離はさらに縮まり、智一の手が私の頬を優しく撫でました。

私は彼の熱を感じながら、彼の息が自分の唇に触れるのを待ちわびました。やがて、彼の唇がそっと私のものに触れ、熱い吐息が混ざり合います。彼の口から伝わる微かな甘い香りが、恵子の感覚を刺激しました。唇が重なると、静かな夜の空気にも熱がこもるようでした。

智一の唇が私を優しく、しかし確実に捉え、唇にそっと割り入ってきました。私はその感触に身を委ね、彼の舌と自分の舌が絡み合う感覚に心を奪われました。交わされる唾液は私たちの関係の密接さを物語っていました。繊細でありながら力強い智一のキスは、私を完全にその場に縛り付けました。

私は智一の顔を両手で包み込み、さらに彼を引き寄せました。智一の手が恵子の髪に触れ、その指が私の首筋をなぞる。過去の若くて甘酸っぱかったキスの面影はなく、彼の探求的なキスは深まり、二人の間の熱い息が小さな空間に満ちていきました。周囲が静まり返る中、ただ私たちの重なる息遣いだけが、夜の静寂を打ち破りました。

キスを終えた私は、なんとなく恥ずかしくなって智一から背を背けました。すると後ろから懐かしい香りが私を優しく包み込みました。

「これからの日々も、君と一緒にいたい。」

智一の言葉は固く、私はそれに応えるように彼の手を握りしめました。

夜が更けるにつれ、私と智一は手をつなぎながら私の家へ戻りました。昔ながらの木造の家は、私が夫と過ごした多くの年月を見守ってきました。今は私一人の住まいで、智一の足音が久しぶりにその静けさを破ります。

家に入ると、智一はふと周りを見回し、私の生活が染み付いた空間に、私の孤独を感じ取っているようでした。

私は、智一の袖を引き、夫婦の寝室へ案内しました。

もう長く一人で生活しているのに、かすかに香った夫の香りが私を責めているようでした。私の感じた罪の意識を知ってか知らずか、智一は気遣うようにソファーを借りるよと部屋を後にしようとします。

「まって。もう私を一人にしないで」

今度は私から彼を引き寄せ、唇を重ねました。そこから彼は、私と夫との生活を上書きするかのようにお互いを求めあいました。空白の30年を埋めるように、何度も何度も。

彼が私の中で果てた後、私は小さな声で、

「ありがとう、智一。あなたがいてくれてよかった」とささやくと、智一は私の手を握り、

「僕もだよ、恵子。これからもずっとそばにいる」と答えました。

部屋に漂う夫の気配をかき消すように強く抱きしめられました。かすかに残っていた夫への罪悪感が消え、30年前と同様、智一への確かな愛情が芽生えていました。

部屋は静寂に包まれ、私たちはお互いの存在を確かめ合いながら眠りにつきました。

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