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~~~私の鼓動は、彼にも聞こえるかのように激しく鳴っていました。「ありがとうございます」と言うと、彼は優しい笑みを浮かべ私をそのまま見つめました。ほんのわずかの時間でしたが、私は自分の身体が急速に熱くなり「このまま抱きしめて欲しい」と、これから先の期待と興奮で頭がいっぱいになっていました。~~~
私は40代半ばの主婦で、夫・子ども一人の3人家族です。子どもの大学入学を機に、家計を支えるためにパートとして働くことにしました。飲食・接客業の案件から2駅先にあるお蕎麦屋さんで務めることになりました。
職人気質で真面目な私より少し年上の店長、彼が営むこのお蕎麦屋さんは、最初はごくありふれた普通のお店だと思いました。でも、店長と共に過ごす時間が長くなるにつれ、彼の人柄や仕事への誠実な態度にとても魅力を感じ、働きがいを感じながらお仕事ができるようになりました。
と言うのも、彼が心をこめて営むこのお店は、常連客の顔と名前を全て覚え、地元の人々にとってほっと一息つける憩いの場になっている程のお店でした。蕎麦の打ち方から盛り付けに至るまで妥協を許さない、こだわりを持った職人気質の彼、しかしその真面目な外見の裏には、人の心を温かくする優しさを感じさせてくれているのをお客さんたちも垣間見ることができていたからなのでしょう。
仕事中の彼の人柄に触れ、やりがいを感じながらお店を一緒にやりくりする中で、私と誠実な彼の間には深い信頼関係が築かれていったように思えました。
そんなある日、酔っ払ってしまったお客さんが私に絡んできたことがありました。あまりのしつこさと大きな声に私は戸惑いと恐怖でどうしたらいいのか分からなくなり固まってしまいました。
その時彼が間に割って入ってくれ、「大事な店員になにをするんだ!」「迷惑なお客はいらん、帰れ!」と、毅然とした態度でそのお客さんを追い出してくれたのです。絡んできたお客さんも常連さんでしたが、スタッフ(私)やお店に対する迷惑行為は誰であろうと許さない男らしい姿を見て、私は惹かれていきました。
また別の日に、手を切ってしまった私に、優しく応急処置を施してくれました。その時の彼の手は、蕎麦を扱う時とは異なり、慎重で温かくて優しかったことにも心を動かされました。
単なるパート職員として働く職場ではなく、彼の存在の大きさ、男性としての温かさ、さりげない優しさ等を日々感じ、彼を想う気持ちは次第に大きくなっていくばかりでした。
「でも、私には夫も家庭もある。ダメダメ・・・」彼への気持ちが膨らんでいく一方で、夫以外の人に気持ちを持っていかれそうな自分に対して、心のどこかで少なからず「罪悪感」を感じていました。
まだこの時は、彼が私のことをどう思っているかなど分かるはずもなく、一方的に想いを募らせているだけでした。しかしその後の出来事が、二人の関係に大きな変化をもたらすことになるのです。
営業終了後の静けさが店内を優しく包み込んでいたある晩、私は、高い棚から荷物を取ろうと台に乗りました。手を伸ばし背伸びした瞬間、バランスを崩してしまい「キャッ」と言って倒れそうになりました。その時、彼が素早く後ろから抱き支えてくれたのです。
彼は隣で黙々と自分の作業をしながらも私のことを気にしてくれていました。彼は、私の身体を抱えるように支えながら、やや大きな声で「大丈夫か?」と声を掛けてくれました。その声は誰もいない店内に響き渡りました。「大丈夫です」とお礼を言いながら、抱きかかえられたまま彼の顔を見た瞬間、一気に二人の距離が縮まったように思えました。
私の鼓動は、彼にも聞こえるかのように激しく鳴っていました。「ありがとうございます」と言うと、彼は優しい笑みを浮かべ私を見つめました。そして優しく抱き寄せてくれました。ほんのわずかの時間のことでしたが、私は自分の身体が急速に熱くなり「このまま抱いて欲しい」と、これから先の期待と興奮で頭がいっぱいになっていました。
しかしその時、お店の電話が鳴り響き、私たちは現実に引き戻されました。
電話の相手はなんと、こともあろうか私の夫からでした。「まだ終わらないのか」と帰宅の催促の電話でした。電話に出てくれた彼は、「今日は忙しかったので、もう少しだけお願いします」「遅くまで引き留めて申し訳ありません。」と、私の夫に淡々と嘘をついて私の帰宅が遅れる了解をとってくれたのです。
バッドタイミングで電話をしてきた夫に「もう、わざわざ帰宅催促してくるなんて」「おまけに最低のタイミングだし」と不信感を抱く私、一方で目の前にいる彼の対応に「あなたの思うままにして」と気持ちが高鳴る私、夫と店長の差が益々開くように思え、彼への熱い想いがさらにこみ上げてくるのを感じました。
そして電話を切った彼は・・・
私に歩み寄りそっと引き寄せ、私を見つめました。その時の彼の眼差しは、先ほどのような温かさに加えて、何かを決意したような強さを帯びていたようでした。
「さっきのこと…もう少し、続けてもいいですか?」彼の声はわずかに震えていました。私には、彼の中で戸惑いの気持ちと強い想いが交錯しているように見えました。そして、彼がこの一言を口にするまでにどれほどの決断をしたのかを感じ取りました。私が、彼に抱き募らせてきた想いと同様で、表にできなかった私の代わりに言ってくれているかのようでした。
お互いに同じ想い・・・
そう感じた瞬間、私の心の中の罪悪感は全て弾け飛んでしまいました。私がゆっくりと頷くと彼は私を強く抱きしめ、「あなたがお店に来てしばらくして好きになっていました」そして「あなたとこうなる日を望むようになっていました」と彼は言いました。
「私も同じ・・・」
口には出せなかったけれど、彼を抱きしめ返して応えました。
「もう自分の正直な気持ちに抗えないわ・・」
私は身体全部が熱くなるのが分かり、何も考えられなくなっていました。
その場で互いに求め合うように熱い抱擁から長いキスを交わし、お店の奥にある部屋に移りました。そして、ひたすら求め合いました。これまで密かに想いを募らせてきた者同士、その想いが叶い合った二人は激しく燃えるような時間を共にしたのです。
もう40歳も半ばというのに、あんなに熱く燃えるような気持ちになった経験はありませんでした。
思い出すと恥ずかしいくらいに乱れたのですから・・。
落ち着きを取り戻した時、私はふと思いました。「夫と、彼と、これまでの関係にはもう戻れないな」と。私の心は完全に彼のことしか考えられなくなっていました。
この一連の出来事が、彼との関係を新たな段階へと導いたのは言うまでもありません。互いをより深く理解し、心から信頼し合うようになった二人、その後も幾度となく求め合いました。
家に帰ると引き戻されるような現実が「そこ」にありました。その先に波乱が待っているのも頭では分かっていました。心のどこかで夫への罪悪感が沸き起こる瞬間もありました。
しかし、それよりお店に出て彼と同じ時間を過ごし、閉店の時間が待ち遠しい毎日でした。
「この先、夫とどうなってももういいの」「彼と一緒に過ごせるならそれでいいの」
「これは運命なのよ、きっと」「私は今こそ幸せな運命に辿り着いたんだわ」
「この運命に私は抗わず、正直に生きていくわ」
私は心の中でそう呟き、彼を求め続けるだけでした。
今夜も熱い夜がやってくる・・から・・。
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