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義理の兄(官能小説版)

禁断の関係

元小説はこちら→https://huroku-ch.com/687

 私の中で燃え続けるこの心。張り裂けそうなこの想いを綴りたいと思う。

 私は貴子。55歳の専業主婦。

 本当は働いていたのだけれど、ある事情で辞めざるを得なかった。

 その事情とは義母の介護である。義母は元々、夫の実家である一軒家で一人暮らしをしていた。私は度々義母の様子を見に家を訪れた。そして、気が付いたのだ。段々と部屋が汚くなっていることに。トイレも流されていないときもあり、私は危機感を持った。認知症の話を聞いたことはあるけれど、他人事だと思っていた。しかし、もう他人事ではない。

 夫に相談すると、面倒くさそうに

「だったら、貴子が母さんの面倒を見ればいいだろう」

 軽い調子で言う夫にイライラしながら、私たちは義母と共に住むことになった。

 

「ここは私の家だ! 不審者は出ていけ!」

 と私のことを嫁だと認知してくれなかった。次第に慣れてくると、私のことをヘルパーさんだと思い、夫の言うことは聞くが、私の言うことは聞かない態度を取るようになった。それでも一応進歩である。

 家の中を徘徊することが増え、私が優しくベッドに戻す日々が続いた。それは夜も起こるので、義母の部屋に鍵がかけられるようにして欲しいと夫に相談した。

「そんなことしたら、母さんがかわいそうじゃないか」

 夫は私が打診するたびに「母さんがかわいそう」と言って却下した。その癖、介護には一切関わってこない。

「たまには手伝ってよ」

 オムツ変えをしようとして夫にオムツを渡すと、

「俺は会社で働いている。お前は家で母さんの面倒を見るのが仕事だ」

 オムツを突き返してきた。

 夫には休みがあるけれども、私にはない。24時間、全ての時間が義母の面倒と家事にあてられる。

 少しくらい手伝ってもいいじゃない。

 怒りよりも悲しみが先に来て歯を食いしばって涙を流した。

 月日が流れ、義母の認知症は進むばかり。施設に入れようと夫に提案したら、

「施設に入れたら母さんがかわいそうだろう」

 またこれだ。そんなにお義母さんが好きなら、自分でもお世話すればいいのに。相変わらず、夫は義母に対して何もしなかった。

 顔を洗おうと洗面所の前に立つ。鏡を見たら、誰だかわからない人が立っている。よく見ると、私だった。顔には深い皺、目元には濃い隈、髪の毛は手入れができていないため、ボサボサで一見すると山姥みたいだった。私はおかしくて笑った。

 玄関で「ただいま」と声がする。私は慌てて身なりを整え、返事をしながら玄関へ向かう。

 玄関には夫の兄、吉郎さんが立っていた。

 お義兄さんは背が高く、適度な筋肉で引き締まった体をしている。顔はあっさりとしていて、知的で好印象を受ける。眼鏡の奥の目は優しさで満ちている。ずっと海外赴任していたのに数年前に会ったときと変わらない。それに比べて一気に十歳も老けたような私の姿を見て、一瞬呆然としたお義兄さんはすぐに気を取り直して、私の目を見た。

「貴子さん、お久しぶり」

 優しい声音で私はその場で膝から崩れ落ち、静かに涙を流した。

 お義兄さんは驚いて、うずくまる私の目線に合わせるようにしゃがみ込む。

「何があったのか、教えてくれるかい?」

 居間に上がって紅茶を出す。私は力なく椅子に座りこんだ。そして、今までにあった話をする。その間、お義兄さんは静かに頷きながら、話をよく聞いてくれた。

「苦労をかけたね。弟は一体、何をしているんだ」

 今日は休日で家にいるはずが、競馬に出かけていて不在である。

 お義兄さんは私の肩に優しく置き、泣く私の肩をさすった。手の温かさが乾いた心にじんわりと染み渡る。お義兄さんに元気づけられて、私は涙を拭い、お義兄さんを義母の元へ案内した。

「こんにちは。あなたは?」

「これは……」

 実の息子でさえ忘れてしまった母を前にしてお義兄さんは固まった。

「こんなに症状が進行しているなんて……貴子さん大変だったでしょう」

 義母の前に私を心配してくれるお義兄さんの優しさに思わずまた涙ぐみそうになった。

「なんだ兄さんか」

 夫が帰ってきて義母の部屋を覗き、ただそれだけを言って自分の部屋へ行ってしまった。

「弟はずっとあんな感じなのかい?」

「ええ、そうなんです」

 味方が増えたと思い、私は夫に対して強気の態度に出た。お義兄さんは黙って私の小言を聞いてくれ、何度か頷いた後にもう一度私を労った。

「僕も母さんの介護を手伝うよ」

「ここへ戻ってくるということですか?」

「うん。海外赴任も終わったことだし、出社しなくても仕事はできるからね」

「ありがとうございます」

 私は嬉しくてお義兄さんの手を思わず握ってしまった。興奮からかまるで無邪気な少女時代に戻ってしまったかのように、顔を赤らめてお義兄さんを見る。

「これから頑張りましょうね」

 お義兄さんも私の手にそっと温かい手を乗せてくれた。

 それからのお義兄さんの行動は早かった。夫の抗議を吹き飛ばし、この家へ自分の荷物を持ってきて暮らし始めた。

 義母の徘徊、食事の世話、身の回りの世話まで、お義兄さんが手分けしてくれるおかげで私は安心して眠ることができた。積極的に介護をし、バリバリと仕事をする姿を見て、理想的な夫を見た気がする。一方、夫は、

「兄さんが勝手にやるなら、俺は干渉しない」

 あろうことかお義兄さんを言い訳に介護をしないと言ったのだ。自分の夫ながら呆れるしかなかった。

 介護は孤独との戦いだ。私にはそう思えた。助けを呼べる人もいない。感謝されるわけでもない。ただ一人で黙々と世話をするだけ。段々と感情をなくして、ロボットのようになっていく自分を客観視しながら、ただただ手を動かしているだけだった。

 でも、今は違う。お義兄さんという味方がいる。

 自分の母の世話を文句ひとつ言わずに続けるお義兄さんの背中を見て、段々と私の心は揺れていった。

 その日は酷く義母の機嫌が悪く、私に強く当たったり、暴言を吐いたりした。

「お前なんかいらないんだよ!」

 私の手を払いのけ、暴れる義母。払いのけた勢いで食事が床に落ちた。

 私は憔悴しながら、居間のソファに座る。

 この頃、義母の症状が進行している。このまま家で介護を続けていていいのだろうか。私の方がもう壊れそうである。

 ふわりと紅茶の香りが鼻の中に広がった。

「ごめんね。応援に行けなくて。今日は仕事が詰まってて」

 お義兄さんが私の前に紅茶を置いてくれた。彼は静かに私の隣に座る。

「私、もう限界かもしれません」

「そうだね、もう素人がお世話できる域を超えているよ」

 そっと私の手を握る。とても温かい。いつだってこの温かい手に助けられてきた。

 私の目から涙が一筋流れる。

 ぬくもりに触れて、私の固まった心が溶解していくようであった。

「お義兄さん。いつもありがとうございます」

「貴子さん。こちらこそいつもありがとう。母の面倒申し訳ない」

 私は口を開きかけて黙った。この言葉を言っていいものか悩んだからだ。しかし、感謝とは言葉にして初めて伝わるものである。私は勇気を出して、お義兄さんの目を見た。

「いいえ、大丈夫です。お義兄さんがいてくれるから」

 やっぱり言葉にすると恥ずかしくて、お義兄さんから目を逸らしてしまう。お義兄さんも顔を真っ赤にして、小さく笑った。

「はは、そうか。僕も貴子さんがいるから頑張れるよ」

 握り握られた手が汗ばんでいる。

 心がどんどんお義兄さんへ向いていた。

 ある日の夜更け、夫はもう寝てしまっていた。相変わらず介護には我関せずといった状態である。

 居間には私とお義兄さんが残っている。

 私は微笑みながら、お義兄さんの手を取った。

「ありがとうございます、あなたが傍にいてくれるだけで、心がとても軽いんです」

 日頃の感謝を口にした。それと、自分の気持ちも。お義兄さんは私の手を握り返し、

「今はとにかく支え合おう。未来のことはこれからゆっくりと……」

 微笑んで私の気持ちに応えるように、そっと頬に手を添える。私はその意味が分かって目を閉じる。お義兄さんの薄い唇が私の唇の弾力を確かめるように這う。

 久しぶりの感触に私の背中はぞくぞくと反応していた。

「貴子さん……」

 かすれ声で私の声を呼び、求める姿が男らしく、もうなくなったと思っていた女心が燃え上がる。

 私はその日、お義兄さんの部屋のベッドで眠った。

 私はなんて幸せ者なのだろう。こんなにも素敵な理解者がいる。お義兄さんといると、安らぎと温かさを感じ、私の心が安寧を得る。

 夫がいない平日、ソファで二人仲良く寄り添いながら、これからの日々を考える。どんな困難が待っていようとも、お義兄さんとなら乗り越えていける気がする。

 まだ夫に対する罪悪感が消えた訳ではないけれども、私はお義兄さんと生きたいと願っていた。

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