代理妻 作:まこ
不幸な日があれば、幸せな日もある。私はそれを身をもって知ることができた。
私は幸子と言います。44歳になる専業主婦です。
息子は中学一年生になり、反抗期が始まりました。
夫は忙しく全国を飛び回る営業マンで、ほぼ家にはいません。
だから、相談できる人といえば、同い年の美紀子さんくらいでした。
「うちのはまだ小学五年生だから可愛いものよ。話を聞いていると反抗期が怖いわね」
そう言って、美紀子さんはぶるりと全身を震わせました。
家に帰ってきた息子に「おかえり」を言っても、挨拶を返してくれません。しかし、いつか返してくれると信じて私は声をかけ続けました。
部屋から暴れる音がします。思春期特有の有り余るエネルギーが暴走しているのでしょう。私は急いで息子の部屋へ向かいました。
「どうしたの?」
扉をノックして、優しく声をかけました。しかし、叫び声しか返してくれません。
夕方ならいいのですが、時折深夜にも同じことをしているので、たまたま帰ってきていた夫が眉を顰めました。
「ちょっと注意してくる」
「あなた」
私は待ったをかけようとしましたが、夫は息子の部屋をノックもせず、開き一喝しました。
「うるさいぞ!」
「そっちこそ!」
私は夫の背中からそっと中を窺います。すると、夫が何故か体を傾けました。
どんくさい私はその意図に気づかず、目の上に息子の目覚まし時計が当たりました。
「お母さんに何をする! 大丈夫か?」
うずくまる私を抱きかかえて、リビングに向かいました。
「目は見えているか。良かった」
夫は私に処置をしてくれました。
本当ならいつでも夫に家にいて欲しいと強く思いました。
次の日、目が大きく腫れていましたが、どうしても外せない用事があるので郵便局へ車で向かいました。
いろいろな人から哀れみの目で見られ、恥ずかしい思いがします。
提出を終わり、車に戻ると、急に家に帰りたくなくなりました。
美紀子さんの家にでも行こうと思って、車を走らせていたら、右側からさっと影が出てくるのを見ました。
急いで急ブレーキをかけますが、努力の甲斐なくガシャーンと派手な音がし、私はエアバックに顔を突っ込みました。
おそるおそる顔をあげたら、そこには自転車と倒れている美紀子さんが。
「美紀子さん! すみません。大丈夫ですか?」
彼女の元へ駆けつけると美紀子さんは意識があり、「大丈夫」と言いました。しかし、額に汗が滲んでいます。足が折れているらしく、私は急いで救急車と警察を呼びました。
大事はなく、入院を一ヶ月程度すれば良くなるとのことだったので、私は胸をなでおろしました。
病室には美紀子さんの旦那さんである晃さんとお子さんがいました。
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
「あなた、その目で運転していたんですか?」
晃さんは自分の目を指差しました。
「どうしても、急用があったものですから……」
「言い訳はいい」
高圧的な態度で私に迫ってくる晃さんは裁判も辞さない構えだと言いました。
私ははらはらと泣きながら、それだけはと懇願しました。
「許してとは言いません。裁判だけは」
「ほう。裁判だけ、は?」
私はその日から、美紀子さんの代理となりました。
「じゃあ、お母さん出かけてくるから、ご飯食べてね」
無言の部屋に空しく話しかけます。
美紀子さんの家に着き、夕飯の準備をします。
「何食べたい?」
お子さんに問うと、「ハンバーグ」と照れながら答えました。
うちの子も数年前はこのような可愛らしい素振りを見せたものでした。今でも、愛していますが、その愛し方を変えないといけないのではとこの子を見て思いました。
「じゃあ、おばちゃんが作ってあげるから待っていてね」
「うん」
パタパタと二階に上がっていきました。それと入れ違いに晃さんが帰ってきました。
「ただいま」
「お、おかえりなさいませ……」
どうしても晃さんの大きな体での高圧的な態度におどおどしてしまいます。
「お風呂は沸いているか」
「あっ」
私は夕飯のことで頭いっぱいでお風呂のことをすっかり忘れていました。
「すみません。今すぐに沸かします」
慌てて目を逸らし、風呂場へ向かおうとします。しかし、ドンと行く手の壁に手をつかれて塞がれてしまいました。
晃さんは私に顔を近づけてきます。私はぎゅっと目と口を結びました。
「目はまだ良くないのに、車で来たのか」
「え? あ、はい……」
「あなたはまた妻のような怪我人を出して、その夫の家に入り浸るつもりなのか?」
「ち、違いますっ!」
馬鹿にされ、思わず大声を出してしまいました。すると、ゴツゴツとした武骨な手が私の口を覆います。
「子供に聞かれるだろう」
怖くなって逃げたくなりましたが、向こう一ヶ月は我慢して、この家に通わなければなりません。
「ハンバーグできたわよ」
「わー」
お子さんは目を輝かせて私の作ったハンバーグを食べました。
「どう?」
「お母さんのより美味しい」
私は涙が出そうになるのを堪えました。最近の息子は私が作った料理ではなく、自分で買って来たお菓子ばかり食べています。だから、一緒に食事をしたり、話すことがめっきり減りました。
「おばちゃんは食べないの?」
「うん。おばちゃん、明日また来るからね」
「うん。じゃあね」
バイバイと手を振るお子さんは本当に可愛らしかったです。
「もう帰るのか」
そこに低いドスの効いた声が響きました。私が振り向くと、晃さんは顎で床を指しました。そこには洗濯物の山。
「これもあなたの仕事だが」
洗濯くらいは自分でしてくれるものだと思っていました。しかし、そこでハッと気づいたのです。この人は家事が一切できないのでは、と。夫は一人暮らしの経験があり、家にいるときは掃除や洗濯などをしてくれることがあります。
いつも家にいるのに家事をしないとは前世代的考えだと思いました。
首を横に振ろうと思いましたが、「裁判」という文字が頭を巡り、私は大人しく洗濯することとなりました。
「ただいま」
「遅かったじゃないか。勝手に作って食べちゃったぞ」
夫が今日、出張から帰ってくるのを忘れていました。
そうです。これがあるべき姿です。普通は食事がなかったら、自分で用意をします。
お風呂を見るときちんと沸かしてありました。
私は膝から崩れ落ちそうになりました。どれだけ夫に恵まれているか。あまり家にいないけれども、いない時は私たちのために働き、いる時は私たちのために家事をしてくれます。
夫をぎゅっと抱きしめました。
「おい、どうしたんだ?」
抱き返してくれる夫。幸せな鼓動の音がしました。
それから一週間が経ち、私の目の上の怪我も治っていました。
私はその日、美紀子さんの病室にいました。
「幸子さんは何も怪我なかった?」
「ええ、大丈夫」
「ふふ」
美紀子さんは軽く笑いました。私を嫌いになっていないようで安心しました。美紀子さんとはこれからも仲良くいたいと思っていたからです。美紀子さんが大変なときに、そんなことを想っている自分が情けなくなりました。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないのよ」
じゃあね、と美紀子さんの病室を離れました。車に向かう時にちらりと晃さんとお子さんが病院の中に入っていくところが見えました。
こちらに気が付いた晃さん。私は頭を下げました。晃さんは頷きもしませんでした。
その後、また息子の料理を用意し、声をかけます。
「行ってくるからね」
ドアにドンと何かが投げつけられました。私は驚いて、静かに家を出ます。
相手の家へ着き、車を確認すると、もう病院から帰ってきているようです。家に入り、洗濯物などを取り込んでいたら、晃さんがいきなり私の前に立ち塞がりました。
「あの、なんでしょう?」
恐々尋ねてみると、突然手を掴まれました。
「きゃっ」
私は驚いて洗濯物を全て床に落としてしまいました。服を容赦なく踏んで、私に近づく晃さんの顔は、とても穏やかなものでした。いつも高圧的な態度を取る晃さんとは何か異なる様子です。
「えっと、その、手を放してくれないでしょうか」
その言葉に突然、私の両手首を強く握り壁に押しつけました。
「妻の代わりをしてくれるんだろう?」
なんと愚かな自分。彼の言うことの意味をやっと理解したときには、彼の唇は首筋を這っていました。
「え、あの」
混乱する中であることにふと気が付きました。家の中に私と晃さん以外の気配がしないのです。
「子供は実家に預けた」
晃さんはくつくつと笑いました。まるで悪魔のような笑いです。
「放してください」
プルプルと震えながら、必死に懇願します。そうすると、手首をさらにぎゅっと掴まれ、余計に逃げられなくなりました。
私は後ろを向かされて、晃さんにお尻をつき出すような格好にさせられました。
「良い眺めだ」
そこからの記憶がほとんどありません。
ごめんなさい、あなた。私は他の男と関係を持ってしまいました。
初めての日から三週間、私は晃さんの言いなりにならざるを得ませんでした。
「じゃあ、これで」
「おばちゃん、もう行っちゃうの? また料理教えてね」
「ええ」
美紀子さんのお子さんはとても素直で良い子で、全く手がかかりませんでした。
晃さんはじっと私を見ています。何か言いたげでした。
「あの、何か?」
彼は顎を触ると、いやと呟き言葉を続けます。
「あなたの息子さんは立派な子だ」
「え?」
話を聞くと、私が晃さんの家に通っている事実を突き止めた息子がバットを持って玄関口に現れたそうです。
「母さんを返せ!」
そう言いながら、晃さんの顔先にバットを近づけたそうです。
「そんな! すみません!」
私は何度も頭を下げて謝りました。まさかそんなことが起こっているとは思いもしなかったからです。
「では、失礼します」
「ばいばい」
自宅の玄関を開けると、一気に力が抜けました。この一ヶ月、さまざまなことが起こりすぎて、流石の私でも疲れました。
「ただいま」
息子の部屋の前を通り過ぎると、小さく「おかえり」と聞こえてきました。驚いて扉の前で思わず立ち止まってしまいましたが、ドンと扉に何かを投げつける音で我に返りました。
「ご飯よ」
温かいシチューを用意して、食卓に座り、一人で食べようとしたところで、息子の部屋の扉が開きました。
「最近、ニキビが凄くて」
お菓子ばかり食べていたからと言い訳をして、シチューをがっつくように食べ始めました。
私は涙が出るほど嬉しかったですが、涙を見せると息子に面倒くさがられるので、そっと拭って笑顔でご飯を食べました。
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